この絵本で届けたいこと

まわりを活かせば、自分も活きる。

サッカー選手のお話です。
でも、うまくなる話でも、
夢を叶えた成功の話でもありません。

がんばって結果を出したのに、
なぜか満たされない。
自分がいなくても、まわりは回っている。
そんなとき、人は何を思うのか。

元プロサッカー選手・鄭大世(チョン・テセ)さんが実際に経験したことを、15の場面でたどる絵本です。ここでは、その物語で描かれていることと、私たちがそこから考えたことをご紹介します。

第一部

「何のために」を、見失ってしまうことがある

ゴールを決めたのに誰も喜んでくれない場面のラフ画

絵本で描かれていること

子どもの頃のテセさんにとって、ゴールを決めることは、みんなが喜んでくれて、自分を認めてもらえる嬉しいことでした。
プロになり「俺がゴールを決めて勝つんだ」という気持ちが強くなっていきます。ある試合で無理なシュートを打ち、ゴールは決まりました。けれど、チームの誰も喜んでくれません。
やがてケガで試合に出られなくなり、自分がいなくてもチームは勝っていく。焦ったテセさんは、さらに「俺が決めなきゃ」とゴールにしがみつきます。

ここから考えたこと

この場面で、テセさんは失敗していません。ゴールは決めています。求めていた結果は出ているのに、最初に大切にしていたものだけが残っていない。
はじめは「みんなで喜びたい」があって、ゴールはそのための手段でした。それが、いつのまにかゴールそのものが目的になっていた。
人の役に立ちたくて始めた仕事が、気づけば数字の話になっている。伝えたいことがあって始めた発信が、伸びたかどうかの話になっている。そういうことは、サッカー以外でも起こる気がしています。

第二部

見える結果の前に、見えない「途中」がある

仲間に協力をお願いしてパスの練習を始める場面のラフ画

絵本で描かれていること

父親になったことをきっかけに、テセさんは子どもの頃に憧れた「みんなとゴールや勝利を喜び合う選手」の姿を思い出します。そして、自分がゴールを決めていたのではなく、仲間のパスがあって決めさせてもらっていたことに気づきます。
ただ、気づいただけでは何も変わりません。テセさんはパスの練習を始めますが、パスは一人では練習できない。仲間に協力をお願いし、お互いが動きやすい位置を考えながら、次の日も、その次の日も繰り返します。練習では誰よりも声を出し、日常でも挨拶を徹底しました。
やがて仲間から「テセと試合に出たい」と思われるようになります。

ここから考えたこと

この期間、テセさんは試合に出ていません。ゴールもなく、褒められてもいません。物語はその見えない時間に、わざわざ3つの場面を使っています。
私たちは、誰かのゴールは見えても、その人の途中はほとんど見えません。誰に頼ったのか、何度やり直したのか、どんな関係をつくってきたのか。そして自分が今積んでいるものも、まわりからは見えていません。
だから私たちは、他人の「結果」と自分の「途中」を比べてしまうのかもしれません。
そしてもうひとつ。仲間の気持ちが変わったのは、ゴールを決めるより前でした。結果が出る前に、すでに積み上がっているものがあります。

第三部

同じ「ゴール」なのに、最初とは違う

ゴールを決めて仲間と一緒に喜ぶ場面のラフ画

絵本で描かれていること

復帰のチャンスが訪れます。まだ何も結果を出していない段階で、仲間もコーチもスタッフも、自分のことのように喜んでテセさんを送り出します。
0対0で迎えた場面。以前なら強引に自分で打っていたところで、テセさんは仲間を信じてパスを選びます。けれど足は止めず、全力で走り込む。仲間も粘ってラストパスを返し、そのボールをテセさんがヘディングで決めました。
スタジアムが沸き、仲間と抱き合って喜びます。

ここから考えたこと

最初の場面も、最後の場面も、テセさんはゴールを決めています。やっていることは同じなのに、意味がまるで違います。
大事なのは、テセさんがゴールを諦めていないことです。パスを選んだうえで、自分で走り込んで決めている。だからこれは、まわりのために自分を抑えましょう、という話ではありません。
自分か、まわりか。結果か、過程か。どちらかを選ぶ話ではなく、つながっている話なのだと思います。

今、こんなことで悩んでいる子が
いるかもしれない。

これから子どもたちは、たくさんの人の「結果」を目にすることになると思います。すごい人。うまくいっている人。たくさんの人から評価されている人。
それを見て「自分は何をやっているんだろう」と思う日が来るかもしれない。がんばっているのに結果が出なくて、自分には価値がないように感じることもあるかもしれない。
誰かに認めてもらうことが嬉しくて、いつの間にか「何のためにやっていたんだっけ?」が分からなくなることもあるかもしれない。
逆に、まわりとうまくやろうとするあまり、自分がどうしたいのかを言えなくなる子もいると思います。
これは、いつかぶつかる壁かもしれませんし、もう今、そんなことで悩んでいる子がいるかもしれません。

絵本から、あなたへ

結果だけが、自分の価値ではないこと。

目には見えなくても、今いる「途中」にも積み重なっているものがあること。

誰かを信じ、誰かに頼り、相手のことを考えることで、自分もまわりも活きる関係をつくれること。

それを「正解」として教えたいわけではありません。読んだその日に、すべて分かってもらう必要もないと思っています。
ずっとあとになって何かに迷ったときに、「自分は何を大切にしたかったんだっけ」「今はまだ途中なんじゃないか」「一人で何とかしなくてもいいんじゃないか」と考えるきっかけになれば。
そう思いながら、この絵本をつくっています。

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